見渡す限りの青空

 

某フェスに行く車内。

 

「着いたらまず誰のとこ行く?」

「僕はmiwa聞きたいわ。めっちゃかわいいよmiwa。」

「俺、miwa好きじゃないんだよね。miwaの雰囲気が苦手。皆が太陽の光を浴びて生きてきたわけじゃないんだよ、って思う。」

 

この3番目の発言者。斜に構える癖のついた若者が私である。紅白等の音楽番組で見かけたmiwaの印象をもって、「miwaが嫌いな俺」という立場で物事を語っているのである。大変いけ好かない若者である。

 

実際に、私が太陽の光を浴びて生きてきたのか、あるいは、月光の中息をひそめて生きてきたのかは、正直よく分からない。

 

大学の頃のお気に入りの場所は、図書館の地下。

 

高校の頃のお気に入りの場所は、誰もいない教室。

 

中学の頃の…

 

(ちなみに、私は中高6年間、毎日のようにテニスコートでボールを追い続けた。あくまで、上記は“私”を構成してきた場所の一部でしかない。構成要素の切り取り方次第で、人生なんてどうとでも表現できてしまうのだ。)

 

フェス会場着。

 

友人に歩調を合わせ、仕方なくmiwaのステージへ。

 

miwa登場。白い衣装を身にまとった小さな天使がそこにいた。

 

「(めっちゃかわええやん。)」

 

見た目は勿論のこと、しぐさがかわいい。(後々知ったのだが、普段は長い髪でお馴染みだったところ、この日はばっさりのショートカット。少し長めなボブ好きの私はこの日ショートカット派に転向した。)

一曲歌い上げるmiwa。

 

ギターがとても大きく見える。小さな身体でギターを鳴らし、元気な声を響かせる。

 

「(俺なんて、財布くらいしか入ってないこの小さなポシェットを持ってるだけで、なんか重い、肩がちょっと痛い、とか思ってるのに。何とエネルギッシュなことか。)」

 

歌いながら、会場を隈なく見渡し、皆に視線を送る。会場にいるひとりひとりに歌声を届けようとするかのように。その温かさは、生まれたばかりの乳飲み子を見守る聖母マリアにも勝るとも劣らない。

 

そうかと思えば、元気にステージを飛び跳ねてみせる。この地に降り立った天真爛漫な天使にとっては、フェス会場で一番大きなステージも狭い。

 

周りを見渡すと、みんな笑顔で、手を振ったり、飛び跳ねたり、一緒に歌ったり。そこは、ありとあらゆる負の感情が存在しない世界だった。尖った形をした負の感情も、酷くこびりついた負の感情も、その存在を許され、この世界から飛び立っていった。

 

ステージのmiwaから発せられる凄まじいエネルギーが会場を包んでいるのだ。

miwaは太陽の光を浴びて生きてきたのではなくて、miwa自身が太陽なのだ。

 

夏の突き抜けるような空の下で、私は、これまでの無礼を深く謝罪し反省し、miwaのファンになった。